小生が小学校低学年の頃,実家の1つ隣の
家に住むおばちゃんが自宅から500m程離
れた借家でたこ焼き屋を始めた.ご主人は
心臓が悪く,長いこと自宅療養をしていた.
おばちゃんの家は公園に面していた.公園
で遊ぶ子どもは無遠慮に大きな声を出すも
のだ.夕方4時ともなると音量が最高潮に
達する.決まってご主人が窓を開けて「う
るさい!!」と我々を怒鳴りつけるのだ.
それを待ってましたとばかりに,子どもは
意図的に大きな声を出すようになった.
子どもは残酷な生き物である.
小生はその家の事情を知っていたにもかか
わらず,他の子のその残酷非道を止める勇
気がなかった.そのことを思い出すといま
でも心が痛む.
お店は軌道に乗ってくると,たこ焼きに加
え,お好み焼きもメニューに加えた.時折,
二人の娘さん達も手伝った.その店は小さ
な島でえらく流行った.これは戦略論でい
うところの"地域一番化戦略"に該当する.
小生は小さい頃からプロの「仕事」に興味
を持っており,仕事風景を観察するのが好
きだった.
バキュームカー(屎尿収集運搬車)の作業も
それに含まれる.その作業を観察している
ところを,そこを通りかかった母親に見つ
かってしまい,叱られたことを覚えている.
理不尽である.
話を戻そう.小生はたびたびおばちゃんの
店の前まで行き,たこ焼きを焼くおばちゃ
んの一連の所作を観察した.
ある日,おばちゃんがおもむろに「こうち
ゃんこれ持って帰りんさい」とあつあつの
たこ焼き1パックを小生に手渡してくれた.
列になって,たこ焼きやお好み焼きが出来
上がるのを待つ客に向けて「この子は親か
らたこ焼き代を預かっとるんよ」と説明し
た.
うちの親は絶対にそんな気の利いたことを
しない.おばちゃんの目には,小生がたこ
焼きを食べたそうにしていると見えたのだ
ろう.正直に言おう.確かにそうだった.
だからその気持ちがうれしかった.近くの
神社の境内で8個のたこ焼きを平らげた後
は,パックに付着した青のり交じりのオタ
フクソースも舐めまわした.
しばらくしてご主人が亡くなった.
おばちゃんはあっけなく店を閉め,娘さん
達を連れて島を出た.
小生が大学に通うようになった頃,風の便
りで,どちらかの娘さんの家族と一緒に暮
らしていることを知った.
GW最終日の今日は広瀬アリス・すず姉妹
がアリス・すずになる前に買っていたらし
いたこ焼きを買った.甘めのソース.
往復2時間あまり,フェリーを周遊してク
ルーズを楽しんだ.その船上でそのたこ焼
きが食べられる.