就活生にとって,履歴書作成というしんどい季節がやってきた.
学生が自己PRを書くと,自分がやってきたことを中心に書く.そ
れは間違いではない.
しかし,その行為は米食に喩えると,食べる人に生の玄米を食
え,という無愛想な対応に近い.少々乱暴である.
なぜか? そんな文章は,まだ白米にもなっていないし,洗米や
炊いたりする必要があるのだ.
その活動するうちにどんなことに気づき,何を学んだのか,意味
づけが求められる.自分なりの切り口が必要である.そのために
は,普段つかわないレベルのことばで自分の主張を述べる能力
が求められる.
今日,我が家に1つ,大きな箱に入った荷物が届いた.そば打
ち道具のセットである.我が家に到着早々,妻に邪魔者扱い
されたようだ.かわいそうに.スーツケース1個分程のスペースを
とるので無理もない.
そこで,小生は次のように妻に弁明した.小生の「趣味の道具」
ではない.むしろ息子の「食育の教材」なのだと.そば打ちがどれ
だけ,食育に向いているのかを力説するわけである.そのうち妻
の叱責の勢いは衰えていった.しめしめ.
ここでは「趣味の道具」から「食育の教材」への言い換えである.
下でいうところの,ベータのことばをつかう必要がある.
知識労働者の日常的な仕事の何割かは,他人にお願い事を
することである.他人に動いてもらうためには,アルファのことばだ
けでは太刀打ちできない.
幼少期に聞いたであろう「北風と太陽」のストーリーをいまだに覚
えている.それはストーリーが語られているからだ.価値のあるウソ
からできたストーリーの中にメッセージが含まれている.
人にお願いをするときは,アルファのことばに自分の願望をその
まま乗せて伝えるのではない.
あなたはどちらのことばを受け入れるだろうか? スポーツで汗をかい
て帰宅した場合,
(1) うわっ,汗臭い
(2) なんか,ワイルドな香りがする
履歴書の中にベータのことばがつかわれていれば,仕事上の何
らかのポテンシャルは示すことができるはずである.
さて,研究の世界ではどのレベルのことばがつかわれるのだろうか?
もちろん,ベータやガンマのことばである.例えば,貨物の配送ネ
ットワークを仮想し,
そのネットワーク上にトラックを走らせる-->ベータことば
トラックの動きを変数で表現する-->ガンマことば
研究活動を行うことは,ベータやガンマレベルのことばを味方につ
けようとする行為に他ならない.
外山滋比古著
ちょっとした勉強のコツ (PHP文庫)
より
アルファ:
人が生まれてまず覚えることば.日常の最小限のコミュニケーシ
ョンができる."いま","ここ"にあることを表現できる.
ベータ:
虚構,フィクション,創作,創造などを生み出す.価値のある
ウソを作り出す.見ることも,ふれることもできない非現実世界
を描く.おとぎ話がその代表.
ガンマ:
ストーリーのないことばで,ものごとの関係を扱う.ベータのことば
から具体性を取り去ったもの.論理.